“ものづくり”のまちとしての伝統と誇りを今に伝える金沢。古くから工芸の盛んな街として知られていますが、その原点は藩の直営工房として優れた職人を京都から招いて育成・保護し、美術工芸の発展を奨励した御細工所の活動にさかのぼることができます。
『絵本 化鳥』は、加賀象嵌の彫金師の父と加賀藩御抱能楽師の娘を母に持つ美と幻想の文学の巨匠・泉鏡花を生んだ金沢市と、鏡花作品をこよなく愛する京都在住のイラストレーター・中川学を中心とする関西の気鋭のクリエーターたちの“ものづくり”の精神によって実現した、現代の“鏡花本”です。
中川氏のイラストは、パソコン(Mac)と「Adobe Illustrator」というソフトウェアを使って描かれていますが、昨今のデジタル作品にありがちな派手な視覚表現の対極に位置し、シンプルな構図と絶妙な配色、そして活き活きとした線によって構成されています。
デジタルなのに優しくて、クールでありながら温かく、スタイリッシュなのにどこかユーモラスで、懐かしいのに新しい。この一見相反する要素を見事に両立させる中川氏のイラストは、日本のみならず世界からも注目を集めています。
ページに心地良い質感を与え、作品の世界観をより印象的なものにしているのが、この本に使用されている「紙」です。 装丁デザインを担当した泉屋氏によって厳選されたこの紙の存在と、横長の判型によって可能になった、まるでパノラマ写真のような見開きのスケール感、そして天地を大胆に切り落としたダイナミックな構図は『絵本 化鳥』の大きな魅力となっています。